第5回:CTOがいるのに事業が進まない理由──優秀なはずの技術責任者が機能しない構造

あなたの会社は大丈夫ですか?
次のような状態が1つでも当てはまるなら、注意が必要です。
- CTOと話が噛み合わない
- 開発が遅れている
- 採用がうまくいかない
- 組織の空気が重い
これらはすべて、CTOが機能していないサインかもしれません。
この記事では、その原因と構造を明らかにします。
CTOがいる。それなのに、会社が前に進まない
「技術責任者もいる。開発メンバーもいる。プロダクトもある。なのに、なぜか前に進まない」──そんな違和感を、言葉にできないまま抱えている経営者は少なくありません。
開発の速度が遅い。採用もうまくいかない。エンジニアは辞めていく。会議ではそれらしい議論がされているのに、現場の空気はどこか重い。経営と開発の間に、見えない壁がある気がする。そう感じているなら、その直感はかなり重要です。
多くの会社では、この段階でこう考えます。「CTOのスキルが足りないのではないか」「もっと優秀なCTOを採用すれば変わるのではないか」。しかし、実際にはもっと複雑です。問題の本質は、能力不足とは限りません。本当に見るべきなのは、CTOという役割が組織の中で機能しているかどうかです。
肩書きとしてCTOがいることと、組織を前に進める役割として機能していることは、まったく別物です。この違いを見落とすと、経営は「人選の問題」と捉え、現場は「相性の問題」と捉えます。そして対策がずれていきます。その結果、同じ問題を人を替えながら繰り返すことになります。
結論:問題は「能力不足」よりも「機能不全」で起きる
もちろん、技術力が足りないケースもあります。マネジメント経験が浅いケースもあります。経営視点が弱いケースもあります。ただ、多くの現場を見ていると、むしろ多いのは「本人は優秀なのに、役割としては機能していない」という状態です。
技術の判断はできる。設計レビューもできる。難しい課題にも答えられる。それでも組織は進まない。なぜか。CTOに期待される役割が、単なる「最も技術に詳しい人」ではないからです。
CTOには本来、次のような役割が求められます。
- 経営と現場の翻訳者であること
- 技術判断を事業判断につなげること
- 採用や評価に一貫した思想を持たせること
- 開発組織の基準を作ること
- チームの不安や摩擦を減らすこと
- 未来の技術負債を見越しながら、今のスピードも守ること
つまりCTOは、「技術の正解を出す人」である以前に、技術を通じて組織を前に進める人である必要があります。ここが抜けると、どれだけ優秀でも、組織の中では機能不全が起きます。
CTOが機能していない会社で起きる5つの典型症状
1. CEOとCTOが、同じ会議で別の話をしている
一見、会話は成立しているように見える。でも、会議が終わったあと、CEOとCTOの頭の中に残っている結論が違う。これは珍しいことではありません。
CEOは市場、成長、採用、資金、タイミングを見ています。視点は未来と外部に向いています。一方でCTOは、品質、開発体制、技術負債、事故リスクを見ています。視点は現在と内部に向きやすい。どちらも正しいのですが、正しさの立っている地面が違います。
たとえばCEOが「今期中にこの機能を出したい」と言い、CTOが「今の体制では危険です」と返す。このやり取りは、単なる意見対立に見えて、実際には「成長を急ぎたい人」と「壊したくない人」が話している状態です。ここに翻訳がないと、CEOは「止められた」と感じ、CTOは「現実が見えていない」と感じます。そして少しずつ相談が減ります。
2. 正しいことを言っているのに、信頼が減っていく
技術責任者が苦しくなるとき、本人は理不尽さを感じがちです。「間違ったことは言っていない」「会社を守るために言っている」。それは半分正しい。実際、多くの場合で内容自体は正しいからです。
ただ、組織では「正しいことを言った」だけでは足りません。相手が受け取れる形で伝わったかどうかが重要です。
「それは無理です」「その仕様は危険です」「今やるべきではありません」。これらは技術的には妥当でも、受け手には「頭ごなしに否定された」と映ることがあります。特にCEOは、外では強く見えても、社内では理解者を必要としています。その相手の一人がCTOです。そこで返ってくるのが正論だけになると、会話は徐々に「相談」ではなく「承認依頼」になっていきます。
3. 開発組織が、技術には強いのに事業に弱くなる
CTOが機能不全に陥ると、組織は内向きになります。品質にはこだわる。技術選定にも厳しい。レビュー文化もある。それなのに、なぜか事業が伸びない。この状態では、「何を作るべきか」より「どう作るか」に意識が偏っています。
本来の開発組織は、ユーザー価値をどう早く、どう安全に届けるかを考えるべきです。しかし、技術を守ることが目的化すると、次のような状態が起きます。
- 仕様の背景理解が弱くなる
- ビジネス側との距離が広がる
- 速度の遅れが説明されにくくなる
- 優先順位が技術都合で決まりやすくなる
するとCEOから見た開発組織は、「優秀だけど、事業に効いている感じがしない」存在になります。これはかなり危険なサインです。
4. 採用で勝てない。採れても定着しない
CTOの機能不全は、採用にかなりはっきり出ます。候補者は、思っている以上に組織の温度差を見ています。面接で話を聞けば、経営が何を大事にしているか、技術組織が何を誇りにしているか、その間に信頼があるかどうかは、かなり伝わります。
たとえば、CEOとCTOの話す未来像が微妙に違う。技術の魅力はあるのに、事業の言葉につながらない。選考の意思決定が遅い。質問に対する答えが人によってズレる。こうしたことが起きると、優秀な候補者ほど不安になります。
採用は条件だけでは決まりません。この会社で気持ちよく働けるか、信頼できる人たちと進めそうか、そこが最後の決め手になります。だから採用は、組織状態を映す鏡なのです。
5. 現場から“静かな諦め”が増える
最も危険なのは、あからさまな対立ではありません。本当に危険なのは、静かになることです。会議で発言が減る。反対意見が出なくなる。チャレンジより、無難な提案が増える。優秀な人ほど、余計なことを言わなくなる。
これは平和ではありません。諦めが広がっている状態です。人は、ぶつかっても変わる可能性があると思えれば、まだ意見を言います。しかし、「どうせ伝わらない」「結局ひっくり返る」「誰も拾ってくれない」と思い始めると黙ります。この沈黙は、組織のエネルギーを奪います。
なぜこうした問題が起きるのか──本質はEQの不足にある
ここで重要なのは、「CTOにもっとマネジメントを学ばせればいい」という単純な話ではないことです。もちろん、マネジメント知識は必要です。しかし、それだけでは足りません。実際に詰まっているのは、知識やフレームではなく、人と人の間で起きる感情の扱いだからです。
CEOは焦っているが、それをうまく言えない。CTOは危機感を持っているが、強く伝わりすぎてしまう。現場は不安だが、誰に言えばいいかわからない。採用担当は違和感があるが、構造の問題だとまでは言語化できない。こうしたものは、表面上は「コミュニケーションの問題」に見えて、その奥には感情があります。
焦り、不信、警戒、遠慮、失望、諦め。組織はロジックだけでは動きません。感情の交通整理ができていない組織は、必ずどこかで止まります。ここで必要になるのがEQです。
EQとは、単に優しくすることではありません。自分と相手の感情を把握し、その感情が意思決定や関係性にどう影響しているかを理解し、適切に扱う力です。CTOにこの視点がないと、正論が武器になります。CEOにこの視点がないと、焦りが圧力になります。現場にこの視点がないと、沈黙が常態化します。
もし「自分の会社もそうかもしれない」と感じた場合、
解決策は「CTOを替えること」ではなく、「構造を立て直すこと」
ここで多くの経営者が迷います。このCTOに任せ続けていいのか。採用し直した方がいいのか。外部の人を入れるべきか。結論から言えば、人の入れ替えが必要なケースもあります。ただし、順番を間違えてはいけません。
最初にやるべきは、誰が悪いかを決めることではなく、構造を見直すことです。立て直しの起点は主に3つあります。
1. CEOとCTOの役割期待を言語化する
驚くほど多くの会社で、CEOがCTOに何を期待しているかが曖昧です。技術判断をしてほしいのか。採用を引っ張ってほしいのか。組織作りまで見てほしいのか。経営会議で事業の議論にも入ってほしいのか。これが曖昧だと、CTOは「期待された役割」を果たしているつもりでも、CEOは「期待した機能」が満たされないと感じます。
まず必要なのは、役割定義の再確認です。
- 何を任せるのか
- 何は任せないのか
- どこまでが意思決定範囲か
- 何を成果として見るのか
ここが明確になるだけでも、かなりの混乱が減ります。
2. 技術と経営の“翻訳”を入れる
CEOとCTOの間には翻訳が必要です。これは必ずしも第三者を入れるという意味ではありません。ただ、誰かが意識的に「経営の言葉を技術の言葉に変える」「技術の制約を経営判断に翻訳する」役割を持たないと、会話はズレ続けます。
組織が小さいうちは、CEOかCTOのどちらかが担えることもあります。しかし成長フェーズに入ると、それでは足りなくなる。このときに有効なのが、外部CTO、技術顧問、開発組織アドバイザーのような存在です。外部の立場だからこそ、感情的なしがらみを減らしながら、論点を整理し、言葉を翻訳し、構造的に問題を見ることができます。
3. 感情と違和感を、放置せず言語化する
最も後回しにされやすく、最も重要なのがここです。「なんとなくやりづらい」「少し不信感がある」「言っても無駄な気がする」。この種の違和感は、数字に出る頃にはかなり手遅れです。だからこそ、違和感が小さいうちに拾い上げる仕組みが必要です。
1on1でも、経営会議でも、定例の振り返りでも構いません。大事なのは、事実だけでなく感情も扱うことです。
- 何が起きたか
- どう感じたか
- 何が不安なのか
- どこに解釈のズレがあるのか
これを丁寧に言葉にしていくと、組織の詰まりは驚くほど見えやすくなります。
こんな状態なら、一度立ち止まった方がいい
もし今、次のどれかに当てはまるなら、かなり早い段階で整理した方がいい状態です。
- CTOと話しても、毎回どこかで噛み合わない
- 開発の遅れに対する説明に納得感がない
- 採用で良い候補者を取り切れない
- 技術的には頑張っているのに、事業に効いている実感が薄い
- 現場から前向きな提案が減っている
- 経営と開発の間に、見えない緊張感がある
- CTO本人も、どこか孤立して見える
これらは単独では小さな違和感に見えるかもしれません。しかし実際には、同じ根から生まれていることが多い。そして放置すると、人が辞め、採用で負け、意思決定が遅れ、最後には「なぜこうなったのか分からないまま弱っていく」状態になります。
最後に──組織の問題は、技術論だけでは解けない
CTOが機能していない会社を見ると、表面には技術の話がたくさん並びます。設計、品質、スケジュール、採用要件、体制図。しかし、その奥にある問題はもっと人間的です。
誰が何を恐れているのか。誰が何に疲れているのか。誰が何を諦め始めているのか。その感情が、どこで意思決定を止めているのか。ここを見ないまま、役職だけ入れ替えても、会議体だけ変えても、同じ問題はまた形を変えて現れます。
だから必要なのは、「誰が悪いか」を決めることではありません。いま組織で何が起きているのかを、構造と感情の両方から整理することです。それができると、CTOを支えるべきなのか、役割を再設計すべきなのか、外部の視点を入れるべきなのか、初めて正しく判断できるようになります。
もし今、CTOと噛み合わない感覚がある。開発組織がどこか重い。経営と技術の間に見えない壁がある。そう感じているなら、それは気のせいではないかもしれません。大事なのは、問題が大きくなる前に、一度、構造を言語化することです。整理されるだけで、次の一手が見えることは少なくありません。
ご相談について
グロースウェルでは、CTO・VPoE・開発組織に関する違和感を、単なる技術論ではなく、組織構造と感情の両面から整理する支援を行っています。
- CTOが機能しているのか客観的に見たい
- 経営と開発のズレを言語化したい
- 外部CTOや技術顧問の活用を考えたい
- 採用や組織づくりまで含めて相談したい
そんな状況であれば、まずは壁打ちレベルでも構いません。「何が起きているのか分からない」という状態を、「何を見ればいいか分かった」に変えるところから、お手伝いできます。
エンジニア組織崩壊シリーズ
- 第1回:優秀なのに嫌われる上司
- 第2回:CTOが機能しているかチェックリスト15
- 第3回:エンジニア組織崩壊チェックリスト20
- 第4回:開発が遅い会社の共通点
- 第5回:CTOがいるのに事業が進まない理由
- 第6回:メンターがいない経営者はなぜ詰むのか
- 第7回:外部CTOは必要か?
- 第8回:なぜ組織は感情で崩壊するのか
- 第9回:EQはどう使うのか
上から順に読むと理解が深まります。

