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優秀なのに嫌われる上司の5つの特徴と改善策

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CTO・VPoEとエンジニア組織の実践ガイド|第1回

「仕事ができる人なのに、なぜ部下がついてこないのだろう」。経営者や人事責任者から見れば不思議に映るかもしれません。技術選定は的確で、判断が速く、難しい障害も解決する。それほど頼れるリーダーなのに、チームの会議では質問が減り、優秀なエンジニアほど相談しなくなる。本人もまた、「正しいことを言っているのに、なぜ伝わらないのか」と戸惑っています。

この問題を「本人の性格が悪い」「部下の打たれ弱さ」と結論づけてしまうと、組織改善の機会を逃します。強い個人プレーヤーの能力と、他者が成果を出せる環境をつくる能力は、重なる部分があっても同じではありません。技術的に正しい指摘をすることと、相手が指摘を理解し、質問し、次の行動を選べる状態をつくることにも違いがあります。

本記事では、既存の記事で取り上げた「優秀なのに嫌われる上司の5つの特徴」を起点に、なぜ優秀な人ほどマネジメントでつまずくことがあるのか、組織の中で何が起きているのか、経営者・人事・CTO・VPoEがどう支えれば改善できるのかを整理します。学術研究から分かることと、現場で役立つ実践案は区別します。目標は好かれる上司を量産することではなく、必要な指摘と高い基準を保ちながら、チームが意見を出し、早く学習できる環境をつくることです。

「優秀さ」と「マネジメントの成果」は、なぜ一致しないのか

エンジニアが個人として評価されるときには、問題を素早く切り分ける力、設計上の欠陥を見つける力、質の高いコードを実装する力などが中心になります。ところが、EMやVPoE、CTOに役割が変わると、他者の判断を支え、仕事を任せ、部門間の対立を調整し、採用や育成へ投資する責任が増えます。今までの成功体験をそのまま拡大すればよいわけではありません。

例えば、コードレビューで欠陥を一瞬で見抜けるテックリードがいたとします。個人の専門性としては強みです。しかし、レビューで毎回「それは違う」「考えが浅い」と結論から伝えると、若手は修正理由ではなく、否定された印象を持つかもしれません。やがてレビュー前の相談が減り、問題が見つかるタイミングが遅れます。リーダーは「最近みんな受け身だ」と感じますが、実際にはその人の対応が質問を難しくしている可能性があります。

ここで確認すべきなのは、仕事の質だけではありません。問題がまだ小さい段階で共有されているか、見積もりの不確実性を率直に話せているか、経験の浅い人も反論できるか。高い基準を求めながら、その基準を達成する過程を支援できているかという点です。管理職の仕事は、自分が正解を出し続けることから、チーム全体が正しく判断できる条件を整えることへと移ります。

Googleのチーム研究では、心理的安全性だけでなく、相互の信頼性、役割と目標の明確さ、仕事の意味、仕事の影響が有効なチームに関わる要素として整理されています。心理的安全性は「何を言っても許されること」ではありません。間違いの報告、質問、異論など対人関係上のリスクを取れるという意味です。基準の厳しさと両立させて考える必要があります。[1][2]

優秀なのに嫌われる上司に共通する5つの特徴

特徴1.正論で押し切り、相手が考える余地を奪ってしまう

「この設計はスケールしない」「なぜ最初にテストを書かなかったのか」。内容が正しくても、相手の判断過程を確かめずに結論だけを返せば、議論は終了してしまいます。専門知識の差が大きいほど、相手は反論しにくくなります。正解が一つではない問題でも、上司の案だけが唯一の正解のように扱われることがあります。

改善の第一歩は、正論を弱めることではありません。設計上の懸念を、議論できる形で提示します。例えば「この設計でアクセスが10倍になった場合、どこが先にボトルネックになりますか」「別案と比較すると何を優先しましたか」と尋ね、相手の思考を明らかにします。次に「私は障害時の切り戻しを懸念しています」と事実と懸念を分けて説明します。指摘する内容は同じでも、相手が考える時間と説明する機会が生まれます。

もちろん、重大なセキュリティ事故を防ぐ必要がある場面では、即座に判断しなければなりません。ただし緊急停止の指示と、平常時の育成レビューを同じ伝え方にしないことが重要です。緊急時に止める権限を持つことと、普段からすべてを一方的に決めることは別です。

特徴2.相談を受けると、共感や確認より先に評価してしまう

相談した部下に「それはもっと早く気づけたでしょう」と返す。本人は再発防止を考えていても、相手にとっては「相談すると叱られる」という経験になります。その結果、次からは問題が明確になるまで報告を控えたり、上司が好みそうな情報だけを持ってきたりするかもしれません。上司が把握している情報は次第に現場の実態から離れていきます。

まず「どこから分からなくなりましたか」「現在、判断できることと確認が必要なことは何ですか」と事実を整理します。その後に、必要な指摘をします。共感とは相手の意見を無条件に認めることではありません。相手が置かれている状況を確認し、次に進むための理解をそろえることです。相手が困っている場面で最初に必要なのが技術的な答えなのか、前提の確認なのか、支援者の確保なのかを分けて考えます。

EMが1on1を進捗確認だけにしないことにも意味があります。GitLabが公開している1on1の実践ガイドには、本人が誇りに思っている仕事、チームが抱える潜在的な問題、上司が改善できることを尋ねる例があります。もちろん、それがすべての会社の正解ではありませんが、相談を受ける側の問いを広げる参考になります。[3]

特徴3.成果を自分で取りに行き、仕事を任せきれない

難しい仕事ほど自分で処理した方が早いと考え、重要な設計や顧客との技術説明を抱え込む管理職がいます。短期的には成功することもあります。しかし、本人の確認待ちが増え、メンバーは「最後は上司が決める」と学習します。人が増えても管理職の稼働時間が限界になるため、組織全体の速度は上がりにくくなります。

任せるとは、丸投げすることでも、結果だけに責任を負わせることでもありません。目的、品質基準、判断できる範囲、相談すべき条件、締め切りを明確にし、適切なタイミングで支援します。例えば「APIの設計は担当者が決定。ただしセキュリティ要件の変更と顧客影響がある判断はCTOへ相談」といった境界を決めます。部下の力が足りないと考える前に、必要な権限と情報が渡っているかを確認します。

優秀な上司ほど、自分が最も難しい問題を解けることに価値を感じやすいものです。しかし、管理職として評価すべきなのは、上司が何件片づけたかだけではなく、上司が不在でも組織が判断できるかどうかです。属人化が減ったか、新しいリーダー候補が育っているかを見ます。

特徴4.意思決定は速いのに、理由が共有されていない

CEOやCTOの判断が速いことは、事業にとって大切です。しかし「今期はこの機能を優先する」と結論だけ伝えられた現場には、「品質を犠牲にするのか」「以前の方針は何だったのか」という疑問が残ります。命令は届いていても、判断の根拠が伝わっていなければ、納得を得られないことがあります。

意思決定の共有では、少なくとも「何を目指すのか」「どの選択肢を比較したのか」「なぜ今回はこの案なのか」「どんな条件なら見直すのか」を明示します。反対意見を出す機会を設け、すべて採用しなくても、採用しなかった理由を説明します。組織に必要なのは、全員が必ず同意することではなく、判断の前提と責任が分かり、実行中の疑問を確認できる状態です。

設計議論が長いチームでは、判断者と助言者の区別をつけるだけで進みやすくなることがあります。例えばPdMが顧客価値とスコープを決め、テックリードが実装方式を選び、CTOが例外的な高リスク判断を承認する。あらかじめ決めておけば、すべての論点がCTOのところで止まることを避けやすくなります。

特徴5.自分の成功体験を疑えず、フィードバックを受け取れない

上司が過去に大きな成果を上げている場合、周囲は意見を言いにくくなります。しかも本人は「厳しく言ったから品質が上がった」「以前の会社ではこの方法で成功した」という経験を持っています。経験は価値がありますが、現在の組織の人数、事業の状況、メンバーの経験が違えば、同じ行動が同じ結果を生むとは限りません。

「みんなは私のことをどう思う?」と直接聞いても、答えは得られないかもしれません。評価や昇進を握る上司には、率直な批判を返しにくいためです。匿名の調査を導入するなら少人数チームの特定可能性や利用目的に配慮し、個人攻撃を誘発しない設計が必要です。より手軽な方法は、具体的な出来事に絞った振り返りです。「先週の会議で、私が途中で結論を出した後、どの論点が話せなくなりましたか」と聞く方が、改善につながる情報を得やすくなります。

フィードバックを受け取ったときは、まず事実を確かめます。意図と影響を分けることも重要です。「私は効率化のために遮った」という意図と、「相手は最後まで話せなかった」という影響は同時に存在しえます。意図が善意だったことは、影響を無かったことにはしません。

技術組織では、なぜこの問題が見えにくいのか

ソフトウェア開発の現場では、議論の厳密さが品質につながります。曖昧な仕様を問い、設計の弱点を指摘すること自体は欠かせません。だからこそ「人を傷つけること」と「厳しい技術的レビューを行うこと」を混同しないことが大切です。問題なのは、相手の説明の機会を奪うこと、人格や能力を決めつけること、毎回同じ人だけが判断することです。

また、エンジニアの仕事は成果が見えにくいことがあります。バグを未然に防いだ仕事、設計上のリスクを説明した仕事、他のメンバーの実装を助けた仕事は、目立つ新機能ほど評価されないかもしれません。上司が自分の実装速度を評価基準にしていると、育成や仕組みづくりへの貢献を見落とします。仕事の質を支えている行動が評価されない状態では、協力するより個人の成果を積み上げる行動が合理的になってしまいます。

評価制度にも目を向けます。個人の技術貢献が高いという理由だけで管理職に昇進させると、本人が望んでいない役割を与える可能性があります。専門職として成長する道と、マネジメントを担う道を分けること、管理職候補に事前に人材育成・対話・意思決定の経験を積んでもらうことが選択肢になります。「管理職になれば偉い」という仕組みを見直すことも、本人と組織の双方を守ります。

心理的安全性は「叱らない職場」ではない

心理的安全性という言葉は、優しさや居心地のよさと混同されがちです。エイミー・エドモンドソンが1999年に公表した研究では、チーム内で質問・報告・異議申し立てなどの対人リスクを取っても安全だと感じられることが、学習行動と関連していると示されました。対象や方法には限界があり、どんな職場でも同じ効果が出ると断定できませんが、マネジメントを考える重要な視点です。[2]

例えば本番障害の原因を分析するとき、ミスをした担当者の名前を最初に追及すると、別の担当者も自分の失敗を言いにくくなるかもしれません。一方で、責任をまったく問わないという意味でもありません。事実、判断の根拠、確認体制、再発防止策を整理し、必要な改善責任を明確にします。「個人の尊厳を守ること」と「仕事の責任を曖昧にしないこと」は両立します。

心理的安全性が高いチームでも、期限が守れないことや品質基準に達していないことは指摘されます。むしろ問題を早期に見つけるために、厳しい情報を安心して共有できる状態が必要です。管理職が目指すのは、批判がない会議ではなく、懸念のある人が発言し、異なる案を検討し、決まったことに責任を持てる会議です。

経営者・人事が間違えやすい「5つの対処」

第一に、部下から不満が出た時点で、上司を「問題人物」と決めつけないことです。実際に高圧的な言動があった可能性はありますが、業務量が過大、目標が矛盾、責任範囲が不明など、環境が影響している場合もあります。会議での発言やレビューのやり取りなど、確認できる事実を集めます。深刻なハラスメントの申し立ては、通常の能力開発とは切り分け、公正な手続きで扱う必要があります。

第二に、「もう少し優しくして」と抽象的に伝えないことです。人格への評価では、本人は何を変えればよいか分かりません。「レビューで最初に結論を言い切った後、部下が判断理由を説明する時間がなかった」という具体的な場面から話し始めます。次のレビューで試す行動を一つ決め、後で結果を確かめる方法に変えます。

第三に、本人だけに改善責任を負わせないことです。上司が短い納期と度重なる仕様変更の板挟みにあり、権限も持っていなければ、落ち着いて部下の話を聞くことは難しくなります。役割、評価指標、業務量、経営会議の進め方など、会社側で修正する条件も同時に確認します。

第四に、匿名アンケートの点数だけで成果を判断しないことです。心理的安全性や上司への信頼を調べる尺度も、運用次第では回答が偏ります。特に少人数では回答者が推測されやすく、本人の自由な発言を妨げる恐れがあります。面談内容、相談の早さ、リスク情報の共有、定着率など複数の材料を組み合わせます。

第五に、改善を一度の研修で終わらせないことです。話を聞いて理解しても、忙しい会議では以前の言い方に戻ることがあります。管理職本人が自分の反応を振り返る時間を持ち、実際の言動を繰り返し見直す仕組みが必要です。必要な場合は、直属の上司や人事が支え、本人が安全に意見を聞ける外部の対話相手を設けます。

CTO・VPoE自身が明日から試せる3つの行動

1.重要な指摘の前に、相手の判断条件を確認する

設計レビューや進捗相談で結論が浮かんだとき、まず「この案を選んだ背景は何ですか」「他の選択肢と比べて、何を重視しましたか」と聞いてみます。相手が十分に検討していない場合も、検討した結果がこちらと違う場合もあります。後者であれば、単純な能力不足ではなく、前提の違いかもしれません。技術的に譲れない条件は明示しつつ、他の領域では相手の判断を尊重します。

2.会議の終わりに、未解決の懸念を一つ聞く

「何か質問は?」だけでは反対意見が出ないことがあります。「この案が失敗するとしたら、どこですか」「現場で実施するときに困りそうな点はありますか」と具体的に聞く方が答えやすくなります。出た懸念は必ず採用する必要はありませんが、誰が確認し、いつ判断するかを決めます。聞くだけ聞いて無視し続ければ、次から意見は出なくなります。

3.一週間に一度、自分の伝え方を振り返る

強い感情が出た場面について、「何が起きたか」「何を感じたか」「何を伝えたか」「相手はどう反応したか」「次に選びたい行動は何か」を短く書きます。例えば「納期遅延の連絡に焦り、説明を遮った。次は状況を最後まで確認してから期限と対策を決める」。感情を否定するのではなく、感情によって選択肢が狭まった場面を見つける練習です。

上司へのフィードバックを設計する――経営者・人事の実務

経営者がCTOへ「現場に嫌われている」と告げたら、本人は守りに入るかもしれません。そもそも「誰に、どの出来事で、どんな影響があったか」が曖昧なままでは、公正な改善につながりません。まず、業務上の成果を認めた上で、関わり方がチームに与えている影響を具体的に話します。「先月の技術レビューで2回、相手の説明途中に結論を伝えました。その後、実装前の相談が減っています。何が起きていると考えますか」といった対話です。

本人の見方を聞いたうえで、次に試す行動と会社側が整える条件を分けます。上司が自分の言動を振り返る、会議で決定前に異論を聞く、技術レビューの品質基準を文書化する。会社側は評価の基準を明確にし、必要に応じて管理職の業務量や権限を調整する。片方だけを変えても、同じ問題が再発することがあります。

短期的な成果を急ぐなら、一つの会議、一つのチームから試します。何が変われば改善と判断するのかも事前に決めます。例えば「懸念が早い段階で表明される」「レビューで修正理由が説明される」「一つの判断にいつまでもCTOの承認を待たない」。数字にできない要素もありますが、少なくとも具体的な行動の有無を確認できます。

EQはこの問題にどう関係するのか

EQ、すなわち感情知能は、一般に自分や他者の感情を認識・理解し、思考や行動に生かす能力と説明されます。サロベイとメイヤーらの研究で体系化され、後にゴールマンが一般社会での認知を広げました。EQの測定・育成には複数の理論があります。したがって「EQの点数が低いから嫌われる」「高ければ優秀な上司になる」と単純に判定することはできません。[4]

ただし、自分の焦りや苛立ちに気づき、相手の立場を確認し、言い方を選び直すことは、具体的な能力開発の課題として扱えます。2024年に公表された職場での感情関連能力トレーニングのメタ分析は、対照群を設けた研究群で平均的な改善を報告しました。一方、研究のばらつきや方法の限界も示しています。知識を学ぶだけでなく、日常の場面で繰り返し行動を試すことが重要です。[5]

「優秀なのに嫌われる上司」を考えるとき、目標は人格の矯正ではありません。正しい技術判断を、他者が理解し、行動できる形で届けること。違う意見や悪い報告を早めに受け取ること。チームが自分で判断できる範囲を増やすことです。上司の強みを失わせず、組織の力につなぐ方法としてEQを位置づけます。

実際のコードレビューを「評価の場」から「学習の場」に変える

改善策を抽象論で終わらせないために、日常のレビューを一つ取り上げてみましょう。例えば、経験豊富なテックリードが若手のプルリクエストを見て、同時実行時にデータが不整合になる可能性を発見したとします。「この実装は危険です。全部書き直してください」と伝えれば、問題の重大さは伝わるかもしれません。しかし、担当者には何を理解し直せばよいか分からず、同じ種類の失敗を繰り返す可能性があります。

そこで、まずレビューで守りたい原則を言葉にします。「注文が重複して確定しないこと」「二重実行しても副作用が増えないこと」「障害時に状態を復元できること」といった条件です。そのうえで「同じリクエストが同時に届いたら、ここでは何が起きますか」と質問し、担当者が判断の前提を説明できるようにします。修正方法を押しつけるのではなく、品質条件を共有したうえで選択肢を比較する。これなら厳しい技術基準を下げる必要はありません。

ただし、質問を増やせば必ず良い指導になるわけではありません。分かっていない相手に延々と答えを求めると、いわゆる「問い詰め」に変わってしまいます。担当者が問題を認識した段階で、必要な説明や参考実装を提示し、解決を支えます。またレビューに時間をかけすぎるとチーム全体の速度が落ちるため、議論が長引く条件や同期して話すタイミングも決めておきます。大切なのは質問の数ではなく、理解と品質の両方を高めることです。

リーダーはレビューの終わりに、「何を修正するか」に加えて「次に似た設計をするときの判断条件は何か」を本人と確認します。翌月、担当者が同じ問題を自分で発見できるようになったなら、上司の厳しさが他者の能力につながったと言えます。この変化は単なる満足度アンケートより、管理職としての実際の貢献を捉える材料になります。

4週間で取り組む、管理職の行動改善の進め方

初週は、自分が強い感情を抱いた会議やレビューを三つ選び、出来事と解釈を分けて記録します。例えば「部下が反論した」は事実として記録できても、「私を軽視した」は解釈かもしれません。自分が感じた苛立ち、不安、焦りを認識したうえで、次に必要だった情報が何かを考えます。誰かを悪者にするための記録ではありません。

第2週は、改善する行動を一つに絞ります。「設計案を否定する前に判断理由を聞く」「障害報告の最初の一言で責めない」「会議で自分が最後に発言する」のように、観察できる行動にします。すべてのコミュニケーションを一度に変えようとすると、忙しい場面で以前の癖に戻りやすくなります。第3週には信頼できる相手に、その行動が実際に起きているかを確かめます。抽象的な性格評価ではなく、具体的な発言や行動について確認してください。

第4週には仕事の結果を振り返ります。レビューの手戻りが減ったか、相談が早くなったか、意思決定の責任が明確になったか。短期間では業績指標の変化が見えないこともありますが、行動の変化は把握できます。改善が小さくても、本人と周囲の認識をすり合わせて次の四週間に進みます。本人の努力を支えるために、経営者は業務量や権限、評価の仕組みに問題がないかも並行して確認します。

会社として「改善した」と判断するための視点

管理職育成の成果を「部下から好かれるようになった」「上司への満足度が上がった」だけで判断するのは危険です。上司が要求を緩めれば、一時的に評価が良くなるかもしれません。しかし品質の問題が隠れ、成果が落ちているのなら、改善と呼べません。逆に、厳しい判断を必要なときに行ったため一時的に反発が生じても、判断の透明性と学習が高まっている場合もあります。

評価の視点は三つに分けると整理しやすくなります。一つ目は、本人の行動です。話を遮らずに確認したか、理由を説明したか、必要な指摘を具体的に伝えたか。二つ目は、チームの仕事の流れです。相談の早さ、レビューの待ち時間、リスクの報告、権限委譲の実態を見ます。三つ目は、事業や品質への影響です。顧客影響のある障害、納期の予測可能性、重要な開発課題の解消など、組織の目的とのつながりを見ます。

変化の原因を一人の研修だけに帰属させる必要はありません。採用、人員配置、事業環境、開発プロセスも同時に影響するためです。大切なのは「本人が変わったこと」と「会社が変えるべき条件」を区別し、改善の説明ができる状態をつくることです。技術的に優秀な上司を失うのではなく、その強みを組織全体へ広げていく。これこそ、経営者が管理職育成に投資する理由だと考えています。

こんな疑問が残ったときは

Q.部下に好かれることを目標にするべきですか。 必ずしもそうではありません。厳しい判断や評価を行えば反発が生じることもあります。大切なのは、手続きや判断基準に納得でき、質問や異論を伝えられる状態です。嫌われないことより、信頼に足る行動を継続することを目指します。

Q.厳しい技術レビューはやめた方がよいですか。 やめる必要はありません。人格の否定と、設計・品質に関する指摘を分けます。判断理由、代替案、次に学べることを具体的に伝えます。レビューが学習の場になっているかどうかを確認します。

Q.本人が改善したいと思っていない場合は。 まず役割に求める行動を明確にし、具体的な出来事と組織への影響を伝えます。支援策を提示したうえで、改善が見られない場合の職務上の対応は会社として公正に判断します。外部支援は責任の代わりではなく、整理や学習を助ける手段です。

Q.社外のメンターが必要ですか。 必須ではありません。社内に率直に話せる相手や育成の仕組みがあれば、まずそこを使います。評価関係が強く本音を出しにくい、CEOとCTOの対話が詰まっている、役割の整理から必要という場合には社外の視点が選択肢になります。

まとめ:強い上司を「チームが強くなる上司」へ

仕事ができる上司ほど、自分の判断の速さや正確さを頼りにしたくなるものです。しかし、マネジメントの成果は、本人がどれだけ正解を知っているかだけでは決まりません。必要な情報が届くか、他のメンバーが判断できるか、厳しい指摘を次の成長につなげられるか。こうした条件を整えることも、CTO・VPoEや管理職の重要な仕事です。

最初からすべてを変える必要はありません。次の会議で結論を急がず、異なる案を一つ聞いてみる。次のレビューで問題点だけでなく判断条件も説明する。その小さな行動を続け、チームの反応を確かめます。経営者は、本人の技術的な貢献を認めながら、役割や評価の仕組みも一緒に見直す。個人と組織の両方を変えることが、持続する改善につながります。

この管理職の改善は、最初の30分でどこから始めるか

行動を変えるときに最初から「共感力を高める」「部下を信頼する」といった抽象的な目標を掲げても、改善できたかどうかは分かりません。まず、直近1週間で相談が止まった場面を一つ選びます。例えばレビューで部下が黙ったのであれば、上司はそのとき何を言い、部下には考えを説明する時間があったかを事実として振り返ります。そのうえで次回は「選んだ設計と、その理由を先に聞かせてください」と伝える行動を決めます。

この振り返りは、部下に上司の機嫌を取らせる活動にしてはいけません。経営者や人事は、上司のコミュニケーションを改善対象として明確にしながら、同時に人員配置、納期設定、権限など環境側の負荷も確認します。過重な業務量を放置し、管理職に「怒らずに伝えろ」と求めるだけでは構造は変わりません。本人が変えられる行動と、会社が直すべき条件を分けることが、公平な支援の出発点です。

CTO・VPoE向け顧問・メンタリングについて

グロースウェルでは、現職のCTO・VPoEのほか、将来その役割を担う開発部長・EM・テックリード、技術責任者を支援・育成したい経営者からの相談を受け付けています。月1回60分のオンライン面談を基本に、経営との対話、チームへの関わり方、採用・育成、意思決定など実際の仕事の課題を整理し、次の行動につなげます。開発実務の代行とは異なる、技術責任者本人の判断と成長を支える支援です。

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CTO・VPoEとエンジニア組織の実践ガイド|全10回

  1. 第1回:優秀なのに嫌われる上司の特徴と改善策(この記事)
  2. 第2回:CTO機能チェックリスト15項目
  3. 第3回:エンジニア組織崩壊の兆候20選
  4. 第4回:開発が遅い会社の共通点
  5. 第5回:CTOがいるのに事業が進まない理由
  6. 第6回:経営者・CTOにメンターは必要か
  7. 第7回:外部CTO・技術顧問・メンタリングの違い
  8. 第8回:なぜエンジニア組織は感情で崩れるのか
  9. 第9回:CTO・VPoEのEQ実践法
  10. 第10回:CTO・VPoEの組織改善90日ロードマップ

参考文献・出典

[1] Google / Think with Google, Team dynamics: The five keys to building effective teams. https://business.google.com/ca-en/think/future-of-marketing/five-dynamics-effective-team/

[2] Edmondson, A. (1999), Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. https://dash.harvard.edu/entities/publication/13a7b031-0fdd-45ec-a7e0-2b80e2bc679f

[3] GitLab Handbook, 1-1. https://handbook.gitlab.com/handbook/leadership/1-1/

[4] Mayer, J. D., Caruso, D. R. & Salovey, P. (2016), The Ability Model of Emotional Intelligence: Principles and Updates. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1754073916639667

[5] Mehler, M. et al. (2024), Training emotional competencies at the workplace: a systematic review and meta-analysis. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39627880/

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