第2回:CTOが機能しているかチェックリスト15──あなたの会社はすでに危険な状態かもしれない

CTOがいるのに、なぜか会社が進まない。
開発が遅い。採用がうまくいかない。意思決定が詰まる。会議は増えるのに、前に進んでいる実感がない。
この違和感を感じているなら、それは偶然ではありません。多くの会社で起きているのは、「CTOがいること」と「CTOが機能していること」を混同している状態です。肩書きとしてCTOが存在していても、経営と技術をつなぎ、技術判断を事業推進につなげ、組織を前進させる役割が果たされていなければ、組織としては機能不全が起きます。
しかも厄介なのは、この問題が最初から大きく見えるわけではないことです。はじめは「少し噛み合わない」「会議が増えた」「以前より開発が遅くなった気がする」といった、小さな違和感として現れます。だからこそ後回しにされやすい。しかし実際には、その小さな違和感こそが、組織崩壊の初期症状であることが少なくありません。
まずは現状を客観的に確認してください。
この記事では、CTOが本当に機能しているかを判断するための15項目を整理し、その背景にある構造的な問題、そして立て直しの方向性まで解説します。単なるセルフチェックではなく、読んだあとに「何が問題で、どこから手を打つべきか」が見える状態を目指します。
なぜ「CTOがいるのに進まない」が起きるのか
多くの経営者は、技術組織がうまくいかないとき、最初に「人の問題」を疑います。CTOの能力が足りないのではないか。マネジメント経験が不足しているのではないか。もっと優秀な人に変えれば改善するのではないか。もちろん、個人の能力が影響することはあります。
ただ、実際の現場では、それだけでは説明できないケースが非常に多いのです。なぜなら、技術組織の失速は、個人の能力不足よりも、役割期待の曖昧さ、意思決定設計の欠如、経営と技術の翻訳不足、感情の未処理といった構造問題から起きることが多いからです。
たとえば、CEOはスピードを求める。CTOは品質を守ろうとする。どちらも正しい。しかし、この二つの正しさをつなぐ設計がないと、会話はすれ違い、現場は板挟みになります。結果として、CTO本人が悪いわけではないのに、「CTOが機能していない」という状態が生まれます。
詳しくはこちらでも解説しています。
CTO機能チェックリスト15
以下の項目に、いくつ当てはまるか確認してください。大事なのは、完璧に当てはまるかどうかではありません。「少し心当たりがある」「最近増えてきた」と感じるかどうかです。その小さな引っかかりが重要です。
意思決定
- 1. CTOが重要な意思決定に関与していない
プロダクトの優先順位、採用方針、開発体制の変更など、重要な判断がCTO不在のまま決まっているなら危険です。あとから実行責任だけを負う構造になり、CTOは機能しにくくなります。 - 2. 誰が決めるのか曖昧
CEOが決めるのか、CTOが決めるのか、PdMが決めるのかが曖昧な組織では、会議は増えるのに結論が出ません。責任の所在もぼやけ、現場は様子見になります。 - 3. 決定が後から覆る
一度決めたはずの方針が、あとから簡単に変わる。こうした状態が続くと、現場は意思決定を信用しなくなり、実行力が落ちます。
コミュニケーション
- 4. CEOとCTOの会話が噛み合わない
同じ会議に出ているのに、終わったあとに見えている結論が違う。これは意見の違いではなく、視点の翻訳不足です。 - 5. 技術とビジネスの温度差がある
経営は市場や成長を語っているのに、開発は品質や負債の話ばかりしている。どちらも必要ですが、接続されていないと組織は前進しません。 - 6. 本音の議論が少ない
会議では表面的に合意しているのに、終了後に不満が漏れる。本当に危険なのは対立ではなく、対立を避けた結果の沈黙です。
組織
- 7. エンジニアが受け身になっている
以前は提案があったのに、最近は指示待ちが増えている。これはモチベーションの問題に見えて、実際には期待値設計と心理的安全性の問題であることが多いです。 - 8. チーム間の連携が弱い
フロント、バックエンド、インフラ、プロダクト、それぞれが自分の範囲だけを見ていて、全体最適の視点が弱い。CTOが機能していない組織で起きやすい典型です。 - 9. 責任の所在が曖昧
障害、品質低下、採用ミス、進行遅延が起きたとき、「誰が何を持つか」がぼやけていると、組織は学習できません。
採用
- 10. 採用で候補者に負けることが増えた
条件は悪くないのに決まらない場合、候補者は組織のズレを感じ取っている可能性があります。 - 11. 面接の評価基準がバラバラ
ある面接官は高評価、別の面接官は低評価。その理由を聞くと見ているポイントが違う。これは採用基準だけでなく、組織の価値観が曖昧なサインです。 - 12. 優秀な人ほど辞めていく
問題を起こす人ではなく、静かで優秀な人ほど先に離れるなら要注意です。優秀な人ほど未来の詰まりを早く察知します。
開発
- 13. 開発スピードが明らかに遅い
前より遅くなっているのに、理由を誰も分解して説明できない。これは単なる忙しさではなく、構造が複雑化しているサインです。 - 14. 技術議論ばかりで意思決定が進まない
議論は高度なのに、結局何をいつ出すのかが決まらない。技術が目的化すると、事業は前に進みません。 - 15. 技術負債が放置されている
「今は忙しいから」で毎回先送りされるなら危険です。負債は消えず、将来のスピードを確実に奪います。
診断結果
0〜3個:大きな問題は見えません。ただし、同じ項目が繰り返し起きていないかは確認してください。
4〜7個:注意が必要です。すでに構造のズレが起きている可能性があります。
8〜10個:危険です。個別対応ではなく、組織全体を見直す段階です。
11個以上:かなり深刻です。すでにCTOの機能不全が、採用・開発・意思決定に連鎖している可能性が高いです。
特に10個以上は、明確な構造問題です。
なぜこの状態が続くのか
最大の理由は、問題が見えていないからです。より正確に言うと、「見えているつもりで、正しく切り分けられていない」からです。
CEOもCTOも、多くの場合でそれぞれ正しいことを言っています。CEOは成長を優先し、CTOはリスクを抑えようとする。この二つは本来、対立するものではなく、両立を設計すべきものです。しかし翻訳がないと、両者は互いを「分かっていない相手」と認識し始めます。
さらに問題なのは、こうしたズレが感情を伴うことです。前に伝えたのに理解されなかった。後から方針が変わった。あの会議で否定された。こうした小さな履歴が蓄積すると、人は論点だけでは話せなくなります。表面上は冷静でも、内側では警戒が強まっていきます。
その結果、組織では次のことが起きます。
- 対話が減る
- 遠慮が増える
- 意思決定が遅れる
- 提案が減る
- 採用が弱くなる
これが、CTO機能不全の正体です。単なる技術力不足ではなく、構造と感情の問題なのです。
最も危険なのは「慣れ」です
この状態で一番怖いのは、問題に慣れてしまうことです。
最初は違和感だったものが、次第に当たり前になります。会議で決まらないのが普通になる。開発が遅いのが普通になる。人が辞めるのが普通になる。こうなると、組織は問題を問題として認識できなくなります。
そして、問題を認識できなくなった組織は、改善もできません。ここまで行くと、何か一つ制度を変えたり、一人採用したりするだけでは戻りません。だからこそ、小さい違和感の段階で気づけるかどうかが重要です。
解決の方向性
解決には三つ必要です。
- 役割の明確化:誰が何を決め、何に責任を持つのかをはっきりさせる。
- 意思決定の設計:会議体、決裁条件、優先順位の決め方を整える。
- ズレの言語化:経営と技術、現場とマネージャーの間にある認識差を見えるようにする。
これが揃うと、組織は一気に動き始めます。逆に、ここを飛ばして「もっと頑張る」「もっと話す」だけで解決しようとすると、疲弊だけが増えます。
それでも解決しない理由
ここが重要です。構造問題は内部では見えにくい。だから解決できないことが多いのです。
当事者同士では、どうしても感情が入ります。遠慮も出る。本質に踏み込みづらい。結果として、会議を重ねても前に進みません。むしろ、話し合ったことで「ちゃんと向き合っている気分」だけが残り、問題は温存されます。
だから必要になるのが外部の視点です。特に有効なのが、メンターや外部CTOのように、経営と技術の両方を理解したうえで構造を整理できる存在です。
もしまだ整理できていない場合はこちら。
重要なのは「早さ」です
問題は軽いうちしか簡単に直せません。重くなると、人が辞める。信頼が崩れる。修復コストが跳ね上がる。ここまで進むと、構造改善だけでなく、人間関係の修復まで必要になります。
反対に、まだ「少し違和感がある」段階なら、整理だけで改善することも多いです。役割を明確にするだけで進むこともありますし、会議設計を見直すだけで変わることもあります。つまり、立て直しは早いほど軽く済むのです。
こんな会社ほど、チェック結果を軽く見ない方がいい
特に次のような会社は、チェック結果が4〜7個でも油断しない方がいいです。
- 急成長フェーズで人が一気に増えている会社
- 創業者がプロダクト意思決定を強く握っている会社
- 採用を強化しているのに、現場の受け皿設計が追いついていない会社
- CTOがプレイングのままで、組織設計まで手が回っていない会社
こうした会社では、表面上は勢いで回っているように見えても、内部では役割の曖昧さや判断基準のズレが急速に膨らみます。成長フェーズでは、小さな構造問題が短期間で大きな組織問題に変わるため、チェック項目の数以上に「変化のスピード」を重視して見る必要があります。
CTO本人が悪者になる構造を作らないことが重要
もう一つ大事なのは、CTO機能不全の議論を「CTO個人の責任追及」にしないことです。多くの場合、CTO本人もまた、曖昧な期待と複数の圧力の中で苦しんでいます。経営からはスピードを求められ、現場からは守ってほしいと期待され、採用ではブランドの顔を求められる。そのうえで役割定義が曖昧なら、機能不全は本人の資質というより、置かれ方の問題です。
ここを見誤ると、会社は「また次のCTOを探す」方向に進みます。しかし、構造が同じなら再現します。本当に必要なのは、誰かを替えることより、誰が来ても機能しやすい土台を作ることです。
また、チェック項目の数だけでなく、「どの領域に偏っているか」を見ることも重要です。意思決定に偏っているのか、採用に偏っているのか、コミュニケーションに偏っているのかによって、打ち手は変わります。数字を見る目的は、危機感を煽ることではなく、論点を絞ることにあります。
最後に
組織の問題は自然には解決しません。意図的に変える必要があります。そしてその第一歩は、正しく認識することです。
もし今、CTOに違和感がある。組織が止まっている。誰にも相談できない。そう感じているなら、すでに手を打つタイミングです。問題が大きくなってからではなく、小さいうちに整理した方が、選択肢は多く残ります。
ご相談
もし今、
- CTOに違和感がある
- 組織が止まっている
- 誰にも相談できない
- 採用・開発・意思決定のどれも重くなっている
そう感じているなら、一度整理する価値があります。
グロースウェルでは、CTO・VPoE・開発組織に関する違和感を、単なる技術論ではなく、組織構造と感情の両面から整理する支援を行っています。壁打ちレベルでも構いません。問題を言語化するだけで、次の一手はかなり見えやすくなります。
エンジニア組織崩壊シリーズ
- 第1回:優秀なのに嫌われる上司
- 第2回:CTOが機能しているかチェックリスト15
- 第3回:エンジニア組織崩壊チェックリスト20
- 第4回:開発が遅い会社の共通点
- 第5回:CTOがいるのに事業が進まない理由
- 第6回:メンターがいない経営者はなぜ詰むのか
- 第7回:外部CTOは必要か?
- 第8回:なぜ組織は感情で崩壊するのか
- 第9回:EQはどう使うのか
上から順に読むと理解が深まります。

